社会福祉法人和風会、特別養護老人ホーム「秋明館」は、小規模生活単位型特養として整備され、全国でも例の少ない新型特養として平成16年4月に開所した。
  小規模生活単位型特養
新型特養の特徴である小規模生活単位型特養(新型特養)とは、従来の4人室を中心とした施設とは異なり、入居者の居室がすべて個室で構成され、入居者10人程度をひとつの生活単位(ユニット)として、ユニットごとにケアを行う施設である。
小規模生活単位型特養の利点としては、入居者が個室に入所することで、個性とプライバシーを確保された生活空間を持つことができる。また、少人数での生活単位では、入所者それぞれの生活リズムに合わせることも可能である。例えば食事についても、少人数での生活では特に厳密な食事時間を決めずに入居者のペースに合わせて食事をしてもらう事もできる。
自分のリズムで生活することが入所者のストレスを減らすことに役立ち、他の入所者とも良好な人間関係を築け、相互交流も進みやすくなるのである。
  施設構成
 同施設は、特別養護老人ホーム(50床)、ショートステイ(10床)、老人デイサービス(標準型)、在宅介護支援センターからなる介護福祉施設である。
入居者は、10人を生活の単位とし、1階に2カ所、2階に4カ所のユニットでそれぞれ生活する。
入居者の個室は、各ユニットで準パブリックゾーンであるリビング(食堂)を中心として、その回りを囲うように配置してある。リビングという交流の場が身近にあることで、個室にこもらず他の入居者との交流が容易にできるよう配慮した。また、ひとりになりたければ、いつでもすぐに自分の部屋に戻ることも可能である。ひとりになれる場所があればこそ、他の入居者との交流も積極的になれるのではないだろうか。
食堂には、入居者が使えるキッチンも備わっていて、10人程度なら配膳や後片付けも積極的に参加してもらえる。また、生活の一部である洗濯についても、2ユニットに1カ所、入居者のための洗濯室を備えられており、毎日自分の物を自分で洗濯できる。そこにもプライバシーがある。
入居者が、自分で生活の場を選び、1日の過ごし方を決める、ここに本来の自由があり、ユニットケアの目的があるのだと思う。
ユニットは、パブリックゾーンである多目的ホールに面して配置することで、他のユニットとの結合性を持たせている。入居者が、外出気分で他のユニットや地域の人たちと交流できるよう、パブリックゾーンを中心に施設全体を計画している。
また、内装計画においては、全体的に木の風合いのする落ち着いた雰囲気にし、特に施設というイメージを取り払い、家であることを入居者が感じられるよう、気を配ったつもりである。施設の床材には、車椅子での移動の妨げにならないようある程度堅く、しかも、転倒の際は衝撃を和らげてくれるよう安全面も考慮しコルク材を選択した。また、壁・天井のクロスなどもシックハウスを考慮し、できるだけ環境にやさしい素材のものを選んだ。
 ● 老人福祉施設のあり方
 初めて全室個室の小規模生活単位型特養を設計するにあたり、改めて老人福祉施設を考えて見た。老人のための福祉施設は、『生活施設』であるべきだと思う。しかし、現在ある多くの施設が4人室を中心とし、団体生活を強要する『収容施設』になってしまっている。
急速に進む高齢化社会のなかで、何千人何万人という待機者を抱えている現状を考えると、施設のあり方が質より量になってしまうのもやむをえないことかも知れない。
私どもも、特別養護老人ホームをはじめとする老人福祉施設などの設計に長く携わってきた。つねに個室の重要性をアピールし、終の棲家(ついのすみか)としての『家』であることを基本コンセプトとして設計を行なってきたが、待機者やコスト補助制度の問題、介護のしやすさ(合理化)などから、結果的に4人室を中心とした施設になっている。
しかし、平成12年の介護保険制度の開始を機に、厚生労働省も全室個室の小規模生活単位型特養を強力に推進し、補助金制度のあり方もそれに合わせて変更した結果、本来の生活の場としての施設に近づき今後急速に普及していくと思う。
ただし、個室化とユニットケアは、本来の生活施設としての介護福祉施設を実現していくうえで必要な最低条件であり、それだけで理想的な施設になるものでもない。今回の施設建設においても、個室化とユニットケアが目指す理想のケアに向けて何が必要なのか、どのように介護を行っていくかをつねに、法人・施工者・設計者で打合せを重ねてきた。また、建物(ハード)と介護(ソフト)の役割分担においてもつねに試行錯誤の繰り返しであった。
  今後の課題
 新型特養の建設に携わり、終の棲家としての施設のハードの部分は、だいぶ理想に近づいてきたと思う。
しかし、大切なことは、個室化とユニットケアを生かした介護であり、入居者が自分の力で生活していくことを基本とする介護のあり方である。
4人室中心の施設での経験にとら囚(とら)われない新しい形での介護の方法を確立することが急務である。また、今の国庫補助制度のなかでは、施設整備の費用の一部と生活のための光熱費の一部を、入所者が個室使用料として施設に支払う必要がある。従来の特別養護老人ホームと費用面での格差が生まれ、今後の課題として残ってしまったことは唯一残念である。
小規模生活単位型特養は、今始まったばかりである。施設がスタートし、運営が進んでいくなかで、新たな介護の問題も出てくると思う。
しかし、つねにケアや介護の問題点と向かい合い、ハード(建物)が入居者に対してできることを追及し、さらによりよい施設となるよう努力を重ねて行き、そしてお年寄りが余生を楽しむにあたり、自由な自己決定のできる、長い連休をゆったりと快適に過ごせる、そんな桃源郷を今後も追い続けて行きたい。

バウ・コーポレーション
吉田雅一

 - 特別養護老人ホーム秋明館 新築工事にあたって -

 社会福祉法人和風会様から、本工事のご下命賜り、工事に着手いたしましたのは、平成15年2月のことでした。着工前の工事敷地は、杉や欅等の高木が密集する林のような敷地でしたので、ここに、どんなものができるのか、我々施工者も楽しみに工事に着手いたしました。
全室個室対応の新型特養ということで、工事当初より、和風会の理事長様・事務長様にも『定例打合わせ』に参加していただき、協議・検討を重ね、バウ・コーポレーション様の設計趣旨を理解し、和風会様のお考えを損ねることなく、入居されるご老人が『快適である』と喜んでいただけることを念頭に、目線を合わせて工事を進めて参りました。約1年の工期を終え、完成した建物を目の前にしますと、施工者の立場では十分満足のいく作品ができたと自負しております。あとは、理事長様を始めとする和風会の皆様や入居されるご老人の方々から、どんな感想がいただけるのか、楽しみにしております。工事の完成にあたり、ご協力いただきました近隣の皆様には、この紙面をお借りして感謝申し上げます。誠にありがとうございました。

前田建設工業株式会社
三和秋明館作業所
所長宍倉康則